Departure's borderline

フリーランス編集/ライターのいろいろな興味事

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もしかして私、HSPかもと思ったので。 -武田友紀『「気がつきすぎて疲れる」が驚くほどなくなる「繊細さん」の本』読了メモ

 

特に意識はなかったのですが、最近実家に帰ったとき、母から「昔からあなたは繊細だったからね」という話になりました。

たしかに、私は人から言われるささいなひとことに傷ついたり、「なんでそんなことで怒るの?」と指摘されるようなことに怒ったりすることがあります。反面、感受性が特に豊かだとほめていただけることも(うれしい)。

 

そこで浮かんだのが、「私ってHSPなんじゃない?」という一つの可能性。

「生きづらいな」を少しでも打破するために、とにかく読んでみようと手に取った『「気がつきすぎて疲れる」が驚くほどなくなる「繊細さん」の本』は、私に当てはまる部分もあるし、当てはまらない部分もありました。が、直後から生活が結構ラクになった気がしています。

 

ささいなことが気になって疲れる人へ――
自分もHSPである専門カウンセラーだからこそ教えられる「超・実践テクニック集」!
◎まわりに機嫌悪い人がいるだけで緊張する
◎相手が気を悪くすると思うと断れない
◎細かいところまで気づいてしまい、仕事に時間がかかる
◎疲れやすく、ストレスが体調に出やすい
⇒そんな「繊細さん」(HSP)たちから、「人間関係も仕事もラクになった!」と大評判
予約殺到の「HSP(とても敏感な人)専門カウンセラー」による初めての本です!
Amazonより引用

 

  1. 前提として、私はHSPなのか
  2. 非・繊細さんの同居人と住んでいて感じること
  3. まとめ

 

 

1.前提として、私はHSPなのか

HSP」とは、ご存じの方も多いかもですが「Highly Sensitive Person」、つまり「生まれながらに非常に感受性が強く敏感な気質もった人」という意味。全人口の中でも、15~20%、つまり5人に1人が当てはまると言われており、決して珍しいものではありません。

珍しいものではないとはいえ、マイノリティであることは間違いないHSPHSPではない人との生活のなかで、疲れや、生きづらさを感じる人も少なくないそうです。

 

この本の中では、HSPに当てはまる人のことを「繊細さん」と呼び、「繊細さん診断テスト(アーロン博士によるHSP自己テスト)」を紹介しています。

次の質問に、感じたまま答えてください。少しでも当てはまるのなら「はい」と答えてください。全く当てはまらないか、あまり当てはまらない場合に「いいえ」と答えてください。

  • 自分をとりまく環境の微妙な変化によく気づくほうだ
  • 他人の気分に左右される
  • 痛みにとても敏感である
  • 忙しい日々が続くと、ベッドや暗い部屋などプライバシーが得られ、刺激から逃れられる場所にひきこもりたくなる
  • カフェインに敏感に反応する
  • 明るい光や、強いにおい、ざらざらした布地、サイレンの音などに圧倒されやすい
  • ゆたかな想像力を持ち、空想に耽りやすい
  • 騒音に悩まされやすい
  • 美術や音楽に深く心動かされる
  • とても良心的である
  • すぐにびっくりする
  • 短期間にたくさんのことをしなければならないとき、混乱してしまう
  • 人が何かで不快な思いをしているとき、どうすれば快適になるかすぐに気づく
  • 一度にたくさんのことを頼まれるのがイヤだ
  • ミスをしたり物を忘れたりしないようにいつも気をつける
  • 暴力的な映画やテレビ番組は見ないようにしている
  • あまりにもたくさんのことが自分のまわりで起こっていると、不快になり神経が高ぶる
  • 空腹になると、集中できないとか気分が悪くなるといった強い反応が起こる
  • 生活に変化があると混乱する
  • デリケートな香りや味、音、音楽などを好む
  • 動揺するような状況を避けることを、普段の生活で最優先している
  • 仕事をするとき、競争させられたり、観察されていると、緊張し、いつもの実力を発揮できなくなる
  • 子供のころ、親や教師は自分のことを「敏感だ」とか「内気だ」と思っていた

12個以上「はい」が付く場合、おそらくHSPなのだそう。

私は13個「はい」がつきました。なかでも「暴力的な映画やテレビ番組」は本当に苦手。サスペンスや医療ドラマは、痛々しいシーンがあるとなるべく音が聞こえないところに逃げたくなります。

「あ、それってマイノリティなんだ」と思うこともチェックリストには入っていて、実は「当たり前」と思っていたことが他人には当たり前ではないことに気づかされました。

 

この結果から、私はだいぶ繊細で、敏感なことがわかりました。じゃあこの心のどこかで感じている「生きづらさ」を打破する方法があるのかもしれない……。その方法がこの後から書かれています。

 

 

2.非・繊細さんの同居人と住んでいて感じること

私は今パートナーと一緒に生活しているのですが、おそらくパートナーは「非・繊細さん」。HSPではないと思います。

服のぬぎっぱなしを指摘してもなかなか直らない、目に見えるところに大きなゴミが落ちていても「見て見ぬふり」……。どうしてこの人はこうなんだ?と少々苛立ったことも数知れません。「なんでこのくらいわかってくれないの!?感情をくみ取ってよ!」と当たってしまったことも……。

 

その都度「言ってくれなきゃわからないよ」と諭されるのですが、私にはこの「言わないとわからない」がわからない。私は人の表情やしぐさ、声色などで「今こういう感情なのかもしれない」がだいたいわかります。接客のバイトをしていたときは「そろそろこの人怒りそうだな」といったタイミングまでばっちりわかっていました。

 

その答えは、この本の以下の通り。

繊細さんと非・繊細さんの感じ方はまるで違うので、繊細さんがどんなに「わかって」「察して」と言っても、非・繊細さんにはどうしても「わかる」「察する」ことができません。繊細さんの訴えは、非・繊細さんにとっては「背中の羽根が痛い」と言われているようなもの。自分にないもの――繊細な感覚――を「わかって」と言われても、無理なのです。

合点がいきました。

 

つまり、パートナーにとっては「本当にわからない」んです。なぜ私が服の脱ぎっぱなしに対して嫌悪感を持つのか、大きなゴミを見て見ぬふりできないのかが理解できない。パートナーがちょっとイライラしているときにさらに苛立たせるような言葉を投げかけてくるとき「イライラしてることくらいわかるでしょ!?ほっといてよ」という私の言葉で、初めて「この人はイライラしていたのか」と気づく……。

まさにない感覚を指摘されているような感覚だったのでしょう。理解したうえで申し訳なく感じ、「今日はちょっとイライラしてるから優しくしてね」「そこにゴミが落ちているんだけど、拾ってくれる?」と声をかけることで、ぶつかり合いが少なくなった気がします。

 

 

3.まとめ

 

こんな具合で、この本にはHSPの方が少しでもラクになる方法がいくつも載っています。もちろん「私はそこまでは思わないけど……」と思う項目もたくさんありました。でも、とにかくたくさんの項目が掲載されているので、自分にあった改善ポイントは必ずあると思います。

 

ただし、読んだだけじゃ改善ってされないんですよね。読んで、理解して、実行しないと解決しない。実行って慣れるまでは意外と労力を使いますよね。疲れる。

疲れのその先に、もう少し「生きやすい未来」があるかもと思って、もう少し努力をしてみようと思っています。

 

クラブパッションに、もう一度。 -石田衣良『初めて彼を買った日』読了メモ

 

このブログで、一番読まれている記事はこちらの『爽年』読了メモ。

departuresborderline.hatenadiary.jp

 

投稿から約3年になるのですが、今でもたくさんの方に読んでいただいていまして、とてもうれしい限りです。

 

そんな、私の人生を動かしたと言ってもいい『娼年』シリーズ。何度も読み返しては、欲望と優しさの物語に涙しているのですが、2021年1月に講談社文庫から発行された『初めて彼を買った日』に、『娼年』のプレストーリーとなる書き下ろしが編まれました。

 

2021年になって、『娼年』シリーズともう一度触れ合えた喜びをかみしめながら、読了メモを残しておこうと思います。

 

 

初めて彼を買った日 (講談社文庫)

初めて彼を買った日 (講談社文庫)

 

 

もうすぐ二十八歳の誕生日を迎える瑞穂が親友からボーイズクラブのカードをもらう。最高の年齢のはずの二十七歳が、セックスはおろかキスさえせずに終わろうとしていた。迷った末クラブに連絡すると……。『娼年』のプレストーリーの表題作を始め、倒錯、童貞、近親など愉悦の世界を美しく描いた八つの物語。

文庫裏表紙より

 

以下、ネタバレと性描写があります。

  1. 「ミズホ」さんとは誰なのか。
  2. パートナーに求める50点
  3. まとめ

 

 

 

1.「ミズホ」さんとは誰なのか。

娼年』シリーズは、クラブパッションというボーイズクラブで働く「リョウ」と、それを取り巻く人々を描いた美しく切ないラブストーリー。『娼年』、『逝年』、『爽年』と3部作で構成され、女性の繊細な感情描写や、それを受けて成長していく「リョウ」のこまやかかつ大胆な情景描写が非常に美しい作品です。

 

『初めて彼を買った日』は、『娼年』プレストーリーということで、あまり本編と交わる部分はないと決めつけて読み始めたのですが、なんというか、ひとつひとつの出来事がパラレルワールドのように広がっていって、不思議な気持ちになるんです。

 

 

『初めて彼を買った日』の主人公となるのは、もうすぐ二十八歳の誕生日を迎える「瑞穂」という女性。 

実は、「ミズホ」という名前の女性は『爽年』にも登場しているのですが、おそらく『初めて彼を買った日』に登場する「瑞穂」さんは、『娼年』シリーズに出てくるさまざまな女性を混ぜた人なのではないかな、と思います。

 

たとえば、『爽年』に出てくる「ミズホ」さんは、「リョウ」が一番美しい女性だったと賞賛している。これは『初めて彼を買った日』の「瑞穂」さんが「見た目は上の中」と自己評価している部分とつながるのではないでしょうか。

 

また、『逝年』で登場する「チサト」さんの「わたし胸はまるで感じないから」という台詞は、『初めて彼を買った日』の「瑞穂」さんが発する「わたし、胸があまり感じないんだ」という台詞とどこかぶつかる。

 

私が拾えていないだけで、たぶんこのほかにもさまざまな女性が「瑞穂」さんという女性につながっている気がしてしまうんです。というのも『娼年』シリーズを楽しんだ私から見た「瑞穂」さんは、あまり初対面な感じがしないんですね。どこかで会った登場人物のように感じてしまって。

 

 

 

2.パートナーに求める50点

 

「あの男(女)は下手だった」とか「身体の相性が悪かった」とか。私も含め、このくらいの年齢の”まだ遊んでても怒られない人種”は、そういった台詞を吐きがちな気がします。

 

多少は、そういうこともあるかもしれません。
だってどうしてもしっくりこないことってあるもん。私の経験上でしかないけど。

 

でも、その意見をやわらかく、否定ではなく訂正してくれるのが、石田衣良先生が描く「リョウ」という人物。

 

「あの、どんな男でも、セックスのときにできるのは五十パーセントですから。上手いとか下手とか、みんないいたがりますけど、四十点と五十点の沙なんて、たったの十点です」

「あとの五十点は?」

(中略)

「もちろん女の人が五十点です。今日はすごく上手くあわせてくれたから、こんなにいいことができた。瑞穂さんに感謝です。」

 

「じゃあ、わたしたちの相性がよかったんだね」

「ええ、そうかもしれません。でも、相性ってあやふやで、急によくなったりすることもありますから。ぼくは相性が悪いといって、パートナーをすぐ切り捨てる人が苦手なんです。好きで楽しみながら努力すれば、絶対によくなるはずだから」

 

なんども言っているけれど、石田先生は女性なんじゃないかなと毎回錯覚します。どうしてこうも、女性が欲しいと思う言葉を美しく紡ぎ、こうして物語の中の登場人物に語らせることができるのだろう。

 

今回「リョウ」が伝えてくれたのは、相性とか、片方の欠損だけがすべてではないのだということ。100点は男女の50点同士が足し算されて出来上がるもので、どちらかが生み出せる点数は最高でも50点なのであると。

その50点も、相性がよかったとか、悪かったで片づけられる問題じゃない。好きで、楽しみながら、努力する。それがいかに容易く、難しいことであるかが、このカギカッコだけで読み取れる……。すごい作品だなと思います。

 

3.まとめ

 

娼年』シリーズの生々しさを、ライトに引継ぎ、そしてもう一つの物語を見せてくれた『初めて彼を買った日』。数ページの短編なのに、そこに詰め込まれた性愛の美しさは本当に重くて儚い。

 

ますます、大好きで、大切な物語になってしまいます。困っちゃうよ。

 

 

ちなみにこのほかに収録されている短編も、どれも非常によかったです。
イチオシは『ひとつになるまでの時間』。

 

少女漫画の世界だと思ってた。現実だった。 -平子祐希『今日も嫁を口説こうか』読了メモ

 

最初に断っておくと、私には「いい恋愛」の経験があまりありません。

はじめてお付き合いをした男性とは半年ほどで自然消滅したし、高校時代から4年半ほど付き合った方は浮気相手とのお子さんができて別れたし。んで、なんだかんだつい最近、久しぶりにお付き合いをした彼氏にフられたし。だいたい私が「好き好き」って依存して、飽きられてフられるの繰り返しです。

 

20代も半ばに差し掛かってきて、実家や祖父母からはいい人はいないのかとせっつかれるお年頃。しょうがないじゃん、まだ出会ってないんだもん。

 

 

『今日も嫁を口説こうか』は、お笑いコンビ・アルコ&ピースの平子祐希さんが書かれたエッセイ。TBSラジオで毎週火曜日深夜24:00~放送中の「アルコ&ピース D.C.Garage」をヘビーで聴いていたこともあり、発売当初から気になっていました。

 

初出は2020年10月。私が小説以外の本を読むことは珍しいのですが、なかなかに深く刺さってしまいました…。

せっかくなので読了メモを残しておこうと思います。

 

今日も嫁を口説こうか (扶桑社BOOKS)
 

 

その男の愛し方は“バカバカしいが、どこか本能にひっかかる”。付き合いたての高校2年生カップルの熱量を16年間キープする、夫婦愛の秘密とは。

「BOOKデータベース」より

 

以下、若干ネタバレあります。

  1. 真由美さんがうらやましいと思う気持ち
  2. 「平子ってる」がここにはあるのか
  3. まとめ

 

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「あしたの家」の子供たちは明日の大人たちです。-有川浩『明日の子供たち』読了メモ

 

「おかあさんは、私よりも施設の子のほうが大事なんだ!」――。

これは幼き日の私が、児童養護施設で働く母に向けて放った言葉です。今思い返せば、なんてひどいことを母に言ってしまったのだろうと胸がぎゅっと苦しくなるのですが、当時の母はそう泣きじゃくる私を抱きしめ、「ごめんね、ごめんね」と繰り返していました。

 

 

『明日の子供たち』は、児童養護施設「あしたの家」を舞台に、新米職員と入所する子供たち、それを取り巻く社会の目線を優しく描き切った長編小説です。

 

初出は2014年8月、単行本。その後、2018年4月に文庫化されました。以前から、有川浩先生の作品だからとあらすじも見ずに購入していたのですが、2年ほど本棚に積まれ、ほこりをかぶっていました。

私こそが読まなくてはいけなかった。もっと早く読めばよかった。そう強く感じながら、読了メモを残しておこうと思います。

 

 

明日の子供たち (幻冬舎文庫)

明日の子供たち (幻冬舎文庫)

  • 作者:有川 浩
  • 発売日: 2018/04/10
  • メディア: 文庫
 

 

三田村慎平は転職先の児童養護施設で働き始めて早々、壁にぶつかる。生活態度も成績も良好、職員との関係もいい”問題のない子供”として知られる16歳の谷村奏子が、なぜか慎平にだけ心を固く閉ざしてしまったのだ。想いがつらなり響く時、昨日と違う明日がやってくる。先輩職員らに囲まれて成長する日々を優しい目線で描くドラマティック長篇。

文庫版裏表紙より

 

以下、だいぶネタバレあります。
また、児童養護施設の在り方について、過去のゆがんだ認識があります。
ご了承ください。

  1. 施設の子は「かわいそう」なのか
  2. 「毎日甘やかしてやれるの」?
  3. 「あしたの家」の子供たちは明日の大人たちです
  4. まとめ

 

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とてもあたたかく、おいしい5年間をありがとう。 -小湊悠貴『ゆきうさぎのお品書き』シリーズ読了メモ

 

「おいしい」は笑顔に直結するものだと思っています。

どんなに疲れていても、悲しいことがあっても、あたたかくておいしいものを食べたならば、ほっ、と肩の力が抜け、口元がやわらかくなる。それは他人が作ってくれた料理でも、自分が作った料理でもおなじ。私は「ごはんを食べる」ということがだいすきです。

 

 

『ゆきうさぎのお品書き』シリーズは、色とりどりの表紙にうっかりと釣られ、表紙買いしてしまった作品。2016年、集英社のライトレーベルであるオレンジ文庫がまだ立ち上がって間もないころ、第1巻『ゆきうさぎのお品書き 6時20分の肉じゃが』が発売になり、2020年6月19日、第10巻である『ゆきうさぎのお品書き あらたな季節の店開き』によって見事なる完結を遂げました。

 

私が半年に一回、毎巻欠かさず発売日に手に取り、楽しんできたシリーズの完結。とてもあたたかく、おいしい5年間を一緒に歩いてくれた『ゆきうさぎのお品書き』に、感謝の意を込めて。

 

 

 

ある事情から、極端に食が細くなってしまった大学生の碧。とうとう貧血で倒れたところを、「ゆきうさぎ」という小料理屋を営む青年、大樹に助けられる。彼の作る料理や食べっぷりに心惹かれた碧は、バイトとして雇ってもらうことに! 店の常連客や、お向かいの洋菓子店の兄妹、気まぐれに現れる野良猫(?)と触れ合ううち、碧は次第に食欲と元気を取り戻していく――。

『ゆきうさぎのお品書き 1』裏表紙より

 

以下、がっつりネタバレあります。

  1. 5年間をかけて、碧の4年間と、その先を追う物語
  2. 表現される料理のあたたかさ
  3. 碧と大樹がすすむ道に
  4. まとめ

 

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少女が翔ける。力強く。-村山由佳『天翔る』再読了メモ

 

エンデュランス」という競技を知っていますか。

馬術競技の一種で、数十キロ、長いものでは150キロを超える距離を、馬と騎手が単独で走破する競技です。ただ走破すればよいだけではなく、区間ごとに獣医師が待機、馬の健康状態を診断し、その診断をクリアしないと次のステージに進めないため、騎手は常に馬の健康状態に気を配る必要があります。まさに、馬と騎手との絆が求められる競技なのです。

 

 

『天翔る』は、そんなエンデュランス競技に出合い、そして果敢に挑戦していく少女と、それを見守る大人たちの物語です。

 

初出は2013年3月、単行本。その後、2015年8月に文庫化され、私も文庫版発売と同時にこの作品を手に取りました。5年ぶりに再読したこの作品は、改めて美しく、力強い生命の力を感じます。

 

天翔る (講談社文庫)

天翔る (講談社文庫)

  • 作者:村山 由佳
  • 発売日: 2015/08/12
  • メディア: 文庫
 

 

不登校になったまりもは、看護師の貴子から誘われた石狩湾の志渡銀二郎の牧場で、乗馬の楽しさを知った。そして人と馬が一体となりゴールを目指す耐久レース・エンデュランスと出合う。まりもを見守る大人たちも皆、痛みを抱え生きていた。世界最高峰デヴィス・カップ・ライドへのはるかなる道のりを描く。

文庫版裏表紙より

 

以下、多少のネタバレあります。

  1. 少女まりもが負った傷。看護師貴子が背負う傷。
  2. エンデュランスと「出合う」
  3. 大人という弱い生き物
  4. まとめ

 

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東京のカフェが最強の海外旅行 -近藤史恵『ときどき旅に出るカフェ』読了メモ

 

色々なジャンルの小説を読んでいると、たまーに来る「メシモノ小説読みたい欲」。バレンタインが過ぎたあたりから、甘味の効いた小説が読みたくなって、本屋に足を運びました。その時たまたま目に入ったのが今回の作品。近藤史恵『ときどき旅に出るカフェ』です。

 

ときどき旅に出るカフェ (双葉文庫)

ときどき旅に出るカフェ (双葉文庫)

  • 作者:近藤 史恵
  • 発売日: 2019/11/14
  • メディア: 文庫
 

 

初出は2017年刊行の単行本。2019年11月に文庫化され、その後すぐに重版。現在流通している刊は第4刷のようです。すごいハイペース。

はじめは短編小説集かな?と思っていたのですが、読んでみたら連作短編集でした。途中で止めることなく、するすると読めてしまう近藤作品の読みやすさはさすがのもの。3時間ほどで一気読みしてしまいました。

 

以下、多少のネタバレあります。

  1. 世界をおすそ分けする。そんなコンセプトのカフェ
  2. 王道メシモノ小説にプラスされたミステリ要素
  3. まとめ

 

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女の決断は、重くて儚い。-島本理生『Red』読了メモ & 映画化に寄せて

 

島本理生という作家の作品を手に取ったのは『ナラタージュ』が最初でした。

美しくも切ない、先生と生徒の踏み込んだ愛を描いたその作品は、今でも島本理生先生の代表作であり、「なにかオススメの恋愛小説ない?」と言われれば、私も一番にタイトルを上げる作品でもあります。

 

島本理生先生が、初めて描いた官能小説『Red』。

初出は2013~2014年の「読売プレミアム」内連載。その後、中央公論新社から2014年刊行、第21回島清恋愛文学賞受賞作です。

 

Red (中公文庫)

Red (中公文庫)

 

 

そんな『Red』が、三島有紀子監督のもと2020年2月21日に全国ロードショーされます。私自身、文庫化に合わせて2017年に1度読んでいるのですが、良い機会だと思って再読した次第。映画化に寄せての個人的意見も含め、読了メモにしておこうと思います。

 

以下、ネタバレ+官能要素あります。

  1. あらすじと、決断の重さ、そして儚さ
  2. 直視できない、でもしてしまう描写の美しさ
  3. 映画化に寄せて
  4. まとめ

 

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伊藤計劃DNAを繋げ -ハヤカワSFマガジン『伊藤計劃トリビュート2』読了メモ

私が敬愛する、伊藤計劃という作家は、たった2つの長篇を残し、34歳という若さでこの世を去りました。あまりにも若く、あまりにも惜しい。そう思える、ゼロ年代を圧倒するSF作家だったと思います。

 

彼がこちらを旅立って、早10年。次の3月で、もう11年になります。

彼の作品は多くの人に愛され、そして伊藤計劃という人物を敬愛する若手作家も多く出てきました。そうした作家のSF短編を集めた『伊藤計劃トリビュート』。一冊目は、伊藤計劃と同世代である中堅作家から若手を集めた超巨大アンソロジーとして、2015年に発売されました。

そして今回ご紹介したい、『伊藤計劃トリビュート2』は、小説新人賞「ハヤカワSFコンテスト」からデビューした20代の新人作家5人と、2017年の出版当時、弱冠18歳、天才と称されたアーティスト、ぼくのりりっくのぼうよみによる6つのアンソロジーです。

 

 

以下、多少のネタバレあります。

  1. 秀才、黒石迩守『くすんだ言語』
  2. 天才、ぼくのりりっくのぼうよみ『guilty』
  3. まとめ

 

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これが、16歳が描く20代。-青羽 悠『星に願いを、そして手を。』読了メモ

ずっと気になっていた、第29回小説すばる新人賞、史上最年少受賞作。当時作者である青羽先生は16歳。2000年生まれ。現在も10代なのかぁ・・・、若いなぁ。

10代の描く「大人になったばかりの大人」視点は、あまりに脆く、儚く、夢に満ちたものでした。『星に願いを、そして手を。』です。

 

星に願いを、そして手を。 (集英社文庫)

星に願いを、そして手を。 (集英社文庫)

 

2017年2月に単行本発売。その後2019年2月に文庫化。昨日たまたま訪れた書店にて、文庫本が堂々と目立つところに積まれているのを発見。「ああ、数年前に話題になったアレね・・・」と手にとり、昨日2時間ほどでイッキ読みしてしまいました。

 

以下、多少のネタバレあります。

  1. 荒削りだが、伸びしろしかない爽やかさ
  2. 16歳の青年が描く、「23~24歳の大人」
  3. 稚拙なようで作り込まれた謎解き要素
  4. まとめ

 

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