Departure's borderline

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私が二球団ファンになった元凶が帰ってきた -東京ヤクルトスワローズ#5 川端慎吾

 

 

何度も言っているけれど、私は二球団ファンである。

父からDNAとして引き継いだ巨人と、大学が神宮球場のすぐ近くにあるからという理由で好きになったヤクルト。

 

巨人ファンっていうモンは、だいたいが超ガンコ(うちの父)で、だいたいが亭主関白みたいなオヤジ(うちの父)で、だいたいが巨人が負けるとその日寝るまで不機嫌になるような奴ら(うちの父)である。

 

そんな父のDNAをまるまるっと受け継いだ私だが、ありがたいことに超ガンコには育たなかったし、巨人が負けてもあまり不機嫌にはならない。父の毎回の不機嫌に飽き飽きしていた母の教育がよかったのだろう。

 

***

 

表参道にある、吉田正尚の出身大学に進学し、居酒屋で飲むより球場で飲むビールのほうがコスパがよいと、感覚がマヒし始めた頃の話だ。

 

表参道から東京ドームに行くのは、結構めんどくさい。特に神保町の乗り換えがめんどくさい。対して大学から歩いて行ける神宮球場は屋外球場。雨に降られさえしなければ、ビールは美味いし夏は花火も拝めるし、なにより申し訳ないが、巨人にとってヤクルトは格好のカモだったのである(2017年対戦成績は巨17-8ヤ)。

 

 

というわけで、私は大学時代の現地観戦のほとんどを神宮球場で過ごした。

巨人戦ならばレフトスタンドで。そうでなければ内野の一番安い席で。
ライトスタンド? それは弱いヤクルトを応援する席であって、巨人ファンが座る席ではない。

……当時の私はだいぶひねくれていた。

 

 

就職活動に失敗し、さらにひねくれ、やさぐれた2018年。私はヤクルトの主催試合のほとんどを神宮球場で過ごした。シーズンシート買えよ、って自分でも思うレベルでヤクルトの試合を見ていた。

相変わらず巨人戦ならばレフトスタンドで、そうでなければ内野の一番安い席で。

 

内野の安い席に座り、ユニフォームも着ず、一人でビールをあおりながらもくもくとコンビニで調達したさけチーをつまむ若い女は物珍しかったのだろう、声をかけてきてくれる人もいた。顔見知りも増えた。だいたいヤクルトファンのおじさんたちだったが。

 

***

 

「ねぇ、明日の席買わない?」

内野席で、おなじみのおじさんに声をかけられたのが2018年7月20日(金)、中日との3連戦初日をヤクルトが勝利で飾った日のことである。

 

「えぇ、いやですよ、土曜日学校ないからこっちいないですもん」

「そんなこと言わずにさぁ…じゃあタダであげちゃう!」

 

タダという言葉につられてチケットをもらった私は、券面を見て卒倒する。

 

――外野席。

 

「外野じゃん!笑 私ヤクルトファンじゃないんですってば!」

あわてて突き返そうとする私を、おじさんはニヤニヤと意地悪な顔で制した。

「まぁまぁ、一回行ってきてよ。ヤクルトの応援歌、もう歌えるでしょ?」

 

 

***

 

次の日、しぶしぶ私は外野席に座っていた。

売り子たちが、「珍しいですね!」と私にビールを売りにくる。しょうがない、飲むしかない。背もたれがない椅子は、腰が痛いから嫌なんだ……。ぶつぶつと文句を言いながら、私は試合を見ることにした。

 

先発は石川。2回表、福田に2ランを打たれる。

あぁ、だからヤクルトは。2018年若干好調だとはいえ、負け試合を外野で見させられるのはタダ券だとしても嫌だ。応援もしないからな。外野だからって立って応援しなきゃいけない決まりはないからな。

 

その後追い上げを見せ、4-4の同点で迎えた9回表。福田、この日2本目のソロHR。

決定打だ……。負けた負けた。次におじさんに会ったらどんな顔をしよう。

 

 

9回裏、席を立とうと思った。今なら電車も空いている。

その時先頭の山田哲人が四球で出た。すぐさま盗塁。続くバレンティンは進塁打。一死三塁。この時点で私は帰るのをやめた。

 

畠山がライトへのタイムリー。山田生還で同点。

…なんだよ、面白い試合できるんじゃん。

 

 

そして、6番、川端。

自分でもびっくりしたのだが、私は川端のチャンテを歌っていた。初外野、初チャンテ。毎日神宮球場に通っていたかいがあった。歌える。

昨日も打っていた川端。もしかしたら、という気持ちもあった。

 

バットに夢を乗せ、慎吾はライトスタンドへサヨナラ2ランを打ち抜いて見せた。

 

 

***

 

この日を機に、私はスワローズファンと名乗るようになった。純粋に川端ファンといってもいいかもしれないけれど、川端をきっかけにどんどんスワローズの魅力にハマっていった。

 

あの日から、私の定位置は神宮球場のライトスタンド。おなじみの売り子たちも、もうすっかりライトスタンドで私を探すのが上手くなった。

 

 

 

そんな川端慎吾が、2020年7月7日、一軍に帰ってきた。

腰の不調と戦い、二軍で涙を呑んできた天才バッター。

 

 

復帰1打席目の成績はサードゴロ。それでも、そのスイングにはかつての天才っぷりがぎっしり詰まっていた。明るい未来を信じずにはいられない。

 

 

おかえり、慎吾。

もう一度、バットに夢を乗せ、ぶつかってぶっ壊して、前に進んでいこうぜ。

 

 

 

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