アラー珍しく年に2冊目の読了メモです。それだけ衝撃作でした。
2024年もたくさんの新刊を手にとりました。新刊って言葉、すごく好き。イチ早くその物語の読者になりたい。
町田そのこ先生の文章は私にすごく合っているのか、すべて読みやすくて好きです。今年は文庫で『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』も読みました。こちらも読みやすくて素敵だったのでぜひ。
初出は2024年7月、書き下ろし単行本。夏はバタバタしていて、12月にようやく読み終えました。素晴らしい作品だった。私の2024年新刊、間違いなくNo.1です。感動をぽつぽつと置いておこうと思います。
「あんたは、俺から花をもらってくれるのか」
犯罪者だと町で噂されていた老人が、孤独死した。
部屋に残っていたのは、彼が手ずから咲かせた綺麗な《花》――。
生前知り合っていた女子高生・安珠は、彼のことを調べるうちに、意外な過去を知ることになる。淡く、薄く、醜くも、尊い。
様々な花から蘇る記憶――。
これは、謎めいた老人が描く、愛おしい人生の物語。Amazon概要より引用
以下、だいぶネタバレあります。
1.ひとつひとつの章、狂おしいほどに愛おしい
これは、「葛城平」という老人を軸に始まる、エピローグを含め全6章構成の長編小説。といいつつ、1章1章は一人称が異なり、ほぼ独立した物語のようにも読めそうに思います。
エピローグを除く5つの章にはそれぞれ花の名前がタイトルとして入っていて、なかでも「ひまわり」は1章と5章に入れられたキーの花。
葛城平は、昔このまちに住んでいた。とある事件を起こし、警察・刑務所沙汰にもなり、逃げるようにまちの外に逃げていった(と周りから思われていた)のが数十年前の話。そしてこのまちに戻ってきた葛城平は、とある少女・安珠と出会う――。
最初の1文からして、まず衝撃でした。
あ、絵描きジジイ。あいつ、すごく汚いよな。
これは安珠の彼氏が発した言葉なのだけど、この言葉から読み取れる情報量がすごい。
・高校生のちょっとイキった男の子が「汚い」とののしる男性
・葛城平は絵を描いている
・おそらく読み手は、この言葉に嫌悪感を覚える
直後に安珠は「別れようと思った」と続けます。いやわかるよ、内面を何も知らない他人をそのように揶揄する人と私もつるみたくない。
でも安珠はそんな葛城平に声をかけ、そして興味を持つ。そして葛城平も、彼女に対してただならぬ思いが芽生えて……。
1章だけでもうワクワクする始まりだったのですが、この物語の素晴らしいところは、ひとりひとりが主人公になるところ。
1章:ひまわりを花束にして は安珠
2章:クロッカスの女 は葛城平が想いを寄せた女性・香恵をホームで介護した呉崎紫里の娘。
3章:不器用なクレマチス は葛城平の昔馴染みの野口光男。
4章:木槿は甘い は葛城平の終の棲家の大家・幸崎奈々枝
5章:ひまわりを、君に が安珠の祖母・悦子
そしてエピローグで安珠に視点が戻ってくる。
それぞれの主人公がとても人間らしく、泥臭いところもあれば不器用な部分もある。だが、それがとてもいいなと思わせる1本1本がとても素晴らしいなと思いました。
2.「理解」の意味をもう一度考えさせられる
今回読み進めていて、ズドンと心に刺さった言葉がひとつありました。「ひまわりを花束にして」で、幼馴染とすれ違い、顔も見たくないと言われてしまった安珠に対し、葛城平がかける言葉。
「話を聞く限り、あんたたちはまずは理解が必要だと思う。理解というのは、互いの努力が一方的じゃ、無理だ。相手と自分が、同じくらいの努力ですり合わせていくしかない。どちらかが上回っていても、ズレが起きる。思い込みや、知ったふりが生まれる」
「そして理解に深さを求めるのなら、後ろめたいことでも、隠したいことでも、向き合って詳らかにしなくてはいけない」
「そう。何もかもを、さらけ出すんだ」
私が今欲しかったのは、この言葉だったんだなぁ。
私はついこの間、「理解」ができないままに人とすれ違ってしまった出来事があって。理解するって、「わかっているつもり」が大半なのだと思います。その物事を本質的に理解できることなんて、10個の物事があったら1個や2個がいいところ。理解なんてほとんどできていないんだと思う。
でも、その理解をすべき人に対して、私はちゃんと向き合ったのだろうか。それは家族だったり、友人だったり、恋人だったりするはずだけど、この言葉を胸に生きていけば、私はきっと、もっと、たくさんの人と共に「理解」をし合える気がします。
……葛城平が言っているように「お互い」という部分が大事なのだろうけれどね。
3.わかってたけど、やはりこの愛に泣いてしまう
※大ネタバレです。
結局、葛城平が抱いていた「恋心」は、香恵(2章にて出てきます)に向いていたのかもしれない。けれど、「愛」は安珠の祖母・悦子に向け、そして悦子も葛城平をずっとずっと愛していた。
葛城平がまちを去る前日、一度だけ悦子と夜をともにし、そして身ごもった息子を女手ひとりで育て上げるのは、当時の情勢から見たら大変なことだったでしょう。息子の存在も葛城平は知らぬまま、ひとり死んでいったけれど、その息子の名前は「等」と付けて、葛城「平」が生きていた証を悦子は残したくて。
安珠は葛城平の孫にあたるわけですが、葛城平は安珠の来訪を心から待ちながら死んでいった。そして悦子も、葛城平の死を知ってから、葛城平が悦子に対して抱いていた想いを知った。
この文章を書いていながらも、私は泣いてしまっています。
きっと人間って、いろんな人と恋愛をして生きていく生き物だと思う。けれど、「愛」をここまで突き通せる人ってなかなかいないんだろうな。死が二人を分かつまでに、お互い伝えたいことがたくさんあったろうに。私はそんな愛を持って生きていけるのだろうか。
4.まとめ
この作品と出会えて本当に良かったです。恋愛小説とジャンルでくくるのはもったいない、人生の物語でした。
「愛」とか「恋」とか、口にするのは簡単だけど、「この人・もの・ことを心の片隅で一生大切にしたい」って思ったときに、私はまたきっとこの本を読み返すと思います。