Departure's borderline

フリーランス編集/ライターのいろいろな興味事

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恩師が確かにここにいた。

小学校時代から定期的なやりとりの続く、恩師がいます。

正しくは、いました。

 

小学校3年生の時の担任の先生で、私はその先生が大好きでした。授業はおもしろいし、笑わすのが上手。私の些細な変化に気付いて話を聴いてくれる、本当にいい先生でした。強気で、少し考えがマセていた私の相手をするのは、きっと大変だったと思いますが、根気強く私の話を聞き、指導してくれた先生でした。

 

私が小学校を卒業してからは、先生とのつながりは年賀状のやりとり程度しかありませんでしたが、ひょんなきっかけで、私が高校生の時に再会。先生とたまたまばったりと会い、その場で連絡先を交換して、ちょくちょくごはんに行くようになりました。

 

だいたい、土曜日の私の部活が終わってから、先生のお宅の近くの小さなレストランでのお食事が定番コース。進路の相談、当時付き合っていた彼氏の愚痴、小学校時代の昔話・・・。どんな話でも、先生は私の目を見て話を聞いてくれました。「マオは本当に素直でまっすぐなんだよなぁ」と、いつも笑い飛ばしてくれる先生が大好きでした。

 

 

そんな先生と、最後に会ったのは4年前。成人式で帰省した私は、地元中学ではなく私立中学に進学していたため、成人式はひとりぼっちでした。特に同窓会が開かれるでもなく、ただただ綺麗な振り袖を着て写真を撮るだけだった成人式。その翌日に「マオ、帰ってきてるんべ、メシ食いいこうや」と誘ってくれた先生とお食事に行ったのです。

 

「あんなちっちゃかったマオが、もうハタチかぁ」
「身長はあんまり変わってないですけどね?笑」

 

そんな冗談を交わしながら、私のグラスに初めて瓶ビールを注いでくれた先生。ハタチになったばかりの私は、まだビールが美味しいと感じられるほど大人ではなく、口をつけて思いっきり顔をしかめ、その私を「まだ早いか」と先生が笑う。先生とその教え子の関係を再確認できた、幸せな時間でした。

 

 

それからあっという間の4年。2019年の秋。

先生は亡くなりました。まだ50代も半ばだった先生。教頭先生や校長先生になってもよい年齢だったにも関わらず、最後まで現場にこだわり、教鞭をとっていた先生。数年前から病気を患い、闘病生活を送っていたそうです。

 

あまりにも信じられなくて、冗談でしょうと、連絡をくれた友人に再三確認をしました。それでも事実はひっくりかえらなくて、私はなんだかよくわからないまま、仕事終わりに新幹線でお通夜に向かいました。

 

お通夜には、私くらいの年齢から、10代と思われる制服姿まで、たくさんの教え子が詰めかけていました。信じられないね、と肩を抱き寄せ泣いていました。

 

みんな、なんで泣いているんだろう。

私にはまったく理解できないまま、先生の遺影を見つめ、「先生、なんでそこにいるの? 先生にはそんな白いお花よりジャージ姿のほうが似合うよ」と心の中で話しかけていました。

 

その日のうちに新幹線で東京へ戻りましたが、なにも受け止められなかった私は、一切泣くこともできず、ただ「先生がいない生活」を送るしかありませんでした。

 

 

年が明け、2020年。

私が今お世話になっている「文春野球学校」で、2019年に起こったことについての原稿を書く機会がありました。

最初は、NPB高校野球、それに関連する吹奏楽のことを書こうと筆をとったはいいものの、全く書けなかったんです。なんかちがう。自分が書きたいことはこれじゃないな、と思って。

 

先生のことを、書いてもいいかな。

そう思って、私は先生についての原稿を書き始めました。不思議と、筆がすすみ、先生との思い出や、私が編集者になることを一番応援してくれていたことなど、悩みながらも書くことができました。

 

書いていて、一番びっくりしたのが、先生を思って泣けたということでした。お通夜でも、その後の数ヶ月も、一切泣けなかった私。原稿を書きながら、先生のことを思い出して、たくさんたくさん泣きました。

 

 

その原稿は、のちにたくさんの人に読んでいただき、驚きと、お褒めの言葉をたくさん頂きました。でも私にとってその原稿は、褒められるために書いたんじゃなく、先生への手紙として、気持ちの整理として書いたものだなと思っています。

 

恐れ多くも、添削をしていただいたライターの大先輩より「編集者もライターも続けて下さいね」とコメントをいただきました。先生からつながったこの一本道を、私はたぶん、これからもまっすぐまっすぐ歩いて行くんだろうなと思います。

 

今週末、先生が眠る場所へ、原稿を持って行こうと思っています。

「せんせ、私こんなにせんせのこと好きだったみたいだよ」

そう、墓前に報告できるのが楽しみです。