※rockin'on.com 内、「音楽文」にて掲載していただきました。
NHKの「18祭」という番組がある。1組のアーティストと、1,000人の18歳世代(満17~19歳)が、一夜限りのコラボレーションをするというイベントを、ドキュメンタリー形式で紹介する特別番組だ。
今年選ばれたアーティストは、[ALEXANDROS]。私がこよなく愛するバンドである。
「18祭」では、選考のために18歳世代から送られた動画をもとに、アーティストが楽曲を制作する。今年の動画のテーマは、『自分だけの「かっこよさ」を本気で表現する』。子どもと大人の狭間をさまよい、苦悩し、それでも挑戦し続ける1,000人の18歳世代から、動画が集まった。
そして作られた、「Philosophy」という楽曲。
直訳すれば、「哲学」、になるだろうか。
ドロスのファンとして、12月の「18祭」の放送を見て、「Philosophy」を初めて聴いた。
よくわからないけど、テレビ越しの曲を聴いて泣いたのは初めてだった。18歳世代だった私のことを思い出して、ボロボロと泣いた。そのくらい、力強い曲だったのだ。
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何もかもが光って 妬ましく思えた
あの夜 僕はどうしても
笑えずにいたんだよ
マイナスの感情は
マイナスでしかないの?
僕は僕でしかない
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偏差値55くらいの普通の高校の、真ん中よりちょっと上くらいの成績をキープしていた、ごく普通の私。自己紹介をするなら、「こんな普通の私ですが」が必ず前置詞に着くような、そういう生き方をしていた私。
ああ、そうだった。自分にはなにもないって思うと、周りが急にスゴいものに感じてしまって、悔しくて、妬ましくて、気が狂いそうだった。
自分にしかない”光るもの”を探したくて、失敗して。結局自分は器用貧乏でしかなくて、なにもかもをソツなく、平均よりちょっと上でこなせる優等生を演じていただけだった。
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誰もが束になって 僕をどう批判したって
何事もない顔して ねじふせればいいのさ
マイナスの感情は
マイナスで×ればいいよ
僕は僕でしかない
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いろんなきっかけがあって、夢を見つけた。夢を叶えるために、田舎を出て東京に出たいと打ち明けた時、両親や先生から大反対された。「東京にいくなんて」「地元の普通の大学を出て、普通に就職すればいいのに」。
18歳の私はまだ、大人には叶わないのかと諦めそうになったこともあった。自信がなかった私に、大人の否定の言葉は重くのしかかってきた。
それでも私は、夢を諦めきれなかった。批判されてもいいと、初めて親に歯向かい、高校の卒業式の翌日、バッグひとつで家を飛び出した。
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何もかもが光って 妬ましいと思ったら
その想い 忘れないで それ以上に光ればいい
マイナスの感情は
マイナスだけじゃないよ
君は君でしかない
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田舎で優等生を演じていた私は、東京で”優等生”というレッテルだけでは生きていけないことを知った。東京に出てきたことを後悔し、”優等生”を演じてきた自分からの脱出方法がわからなくて、夜な夜な渋谷で遊び回ったこともあった。田舎にいた時以上に周りが光って見えて、怖くて、妬ましくて、自分はなにもできないんだと膝を抱えた。
あの時の私に、「Philosophy」を贈ろう。
「その想い、忘れないで、それ以上に光ればいい」って。
24歳の私は、18歳の時に見つけた夢を叶えるために、少しずつ前進しているよって。
「18祭」の放送エンドクレジットで、出演した18歳世代たちが口を揃えて「今日のことは一生忘れないです」と言っていた。一番多感で、子どもでも大人でもない18歳世代。彼らを想ってドロスが描いた楽曲に、心を動かされ、勇気づけられた18歳世代が多かったことは言うまでもない。
でも、この曲はもしかしたら、18歳世代だけでなく、「18歳を経験したすべての大人たち」に向けて描かれた、ドロスからのアンセムなのではないだろうか。少なくとも、24歳の私はドロスからの「Philosophy」をそう受け取った。
あの放送を見た後、COUNTDOWN JAPAN 19/20で、彼らの生演奏の「Philosophy」を聴いた。
「一緒に歌おう。」
彼らはそう言って、私達と共に「Philosophy」を歌い上げた。
ああ、やっぱり、この曲は最高のアンセムだ。
ありがとう。
救われたのは、18歳だけじゃない。
[Alexandros] - Philosophy (MV)