Departure's borderline

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女に振り回される男の類~『水を抱く』読了メモ

 

娼年』シリーズに出会って以来、石田衣良先生の恋愛小説ファンです。少し浮世離れした、世界を達観する男性。何かとコンプレックスを抱く女性。生々しい性描写。描かれる繊細な背景。すべてに惚れています。

 

新潮社から出ているこの『水を抱く』は、『眠れぬ真珠』『夜の桃』と表装が似ていることから、私は勝手に三部作なのかなあと思ってました。実際に、『眠れぬ真珠』と『夜の桃』は、物語に若干のつながりがあります。

 

水を抱く (新潮文庫)

水を抱く (新潮文庫)

 

 

初対面で彼女は、ぼくの頬をなめた。29歳の営業マン・伊藤俊也は、ネットで知り合った「ナギ」と出会う。5歳年上のナギは、奔放で謎めいた女性だった。雑居ビルの非常階段で、秘密のクラブで、デパートのトイレで、過激な行為を共にするが、決して俊也と寝ようとはしない。だがある日、ナギと別れろと差出人不明の手紙が届き……。石田衣良史上もっとも危険でもっとも淫らな純愛小説。 

以下ネタバレあります。

 

性描写の少なさが新鮮

石田作品は、行為を事細かく、なおかつ美しく描写するのがお得意なのだと思っているのだけど、今回に関しては、確かに俊也とナギがベッドを共にするシーンが1度しかない。しかも、超ラストに、たった1度だけフワっとベッドを共にしたという事実要約があるだけ。Oh…あのねっとりした描写を楽しみにしていた私には少し物足りなかった…。

 

ただ、アブノーマルプレイシーンが非常に多い。もちろん、これも石田先生のお得意だからすんなり受け入れられたのだけど、このスッキリとした表装から手に取った人にはだいぶびっくりする描写なんだと思う。所謂SMプレイだったり、野外、性的クラブ等々、先生よくこんなの思いつくよなあ…。ほんと毎回感心させられます。

 

俊也が「自分はSだと思う」と語るシーンがあるのだけれども、ナギに対してMを見せている(暴かれている?)ところは、自分の中で疑問を持った。

 

 

ナギのつかみどころなさすぎる件

今回主要な女性として出てくるナギは、数週間で2桁の数の男と寝るような女。自分は幸せになってはいけないと思っている系、女子からしたら「あーーー病んでんなーーー」ってタイプの女です。

 

電話も2回に1回しか出ない、メッセージも返さない、相手のスケジュールなんてお構いなしに、会いたいと思えばそれだけで騒ぐ、めんどい女。それでも惹かれる俊也。つかみどころのない人に惹かれるのは、男も女も一緒なのかもね。

 

作品の中で語られなかったのは、どうやってナギが生計を立てているのか。見たところ、男の金で生きているわけではなさそう…。はて。

 

渋谷のスクランブル交差点の前のセリフが忘れられない。

「どんな善人も、どんな聖人も、どんな金もちも、どんなスケベも、みんなあと百年もしたら誰ひとり生きてはいない。明日生きてるかさえわからない。それでもみんな必死になって、横断歩道わたったり、終電にすべりこんだり、ラブホテルに駆け込んだりしてるんだ。人間って、なんてかわいくて、バカらしくて、切ないんだろう。」

 

 

そういえば

髪を切りました。腰まであったスーパーロングを顎上のショートボブに。失恋ではない。思い返すと、今までもバッサリ髪を切った時って、何か悩んでたことが解決した時だった気がする。何に悩んで何を解決したのかわからんが、今はそういう時なんでしょう。